株式会社日本HP
■制度の整備状況
週に数日の在宅勤務を想定したフレックスワークプレイス制度規程及び運用マニュアル並
びに完全に自宅を勤務地とする在宅勤務制度規程を整備している。本制度に加えて、2007
年「フレックスワークプレイス制度」の規程を整備し、制度を導入した。本人が希望して上司
が承認すれば、週2日を上限として在宅で勤務できるテレワーク制度を開始した。その後、
2011年の東日本大震災や2015年の分社化を経て、テレワークが定着した。2016年には在
宅勤務の上限が週4日となり、2018年には非正規社員にも拡充された。2020年2月、新型コ
ロナウイルス感染症対策としてBCP(事業継続計画)が発動され、週1日の出社義務が無く
なり、全社員が原則として在宅勤務となった。
会社概要
基本的な事項
組織名
名称:株式会社日本HP
創立:2014年12月(日本ヒューレット・パッカード株式会社から分社)
組織代表者
役職代表取締役社長執行役員
氏名岡戸伸樹(おかどのぶき)2021年11月1日就任
業種精密機器の製造、販売
所在地東京都
総従業員数GlobalCompanyPolicyにより非公開
テレワークの導入形態
終日在宅勤務部分在宅勤務
モバイル勤務
テレワークの利用者数(過去1年間)派遣社員含む全社員
会社概要
派遣社員を含む全社員がテレワークを実施している。自律的な働き方を推進してお
り、テレワーク関連だけでなく、フレックスタイム、裁量労働等、働く場所と時間に関し
て柔軟な勤務制度を取り入れ、社員が生産性の高い効率的な働き方ができるよう環
境を整えている。押印の電子化などの業務改善にも積極的に取り組んでおり、社員の
75%がコロナ後も週3日以上の在宅勤務を希望するなど、テレワークの満足度が非常
に高くなっている。
29
■経営上の位置付け
年々ビジネスのスピードが加速する中、社員がいつでもどこでも安心して働ける環境を整
備することが重要となった。特に都市部のオフィスでは通勤時間の短縮により社員の肉体
的、精神的な負荷が軽減できることから、テレワークの利用により、より効率的に生産性の高
い働き方を目指すことをテレワーク制度の位置付けとしている。また、BCP上の観点及び今
後多様な人材を採用するためにも、テレワーク制度を維持することは有効と考えている。
新型コロナウイルス感染症の拡大により働き方やオフィスの役割が大きく変化する中、本社オフィ
スの移転を決定。コロナ後の新オフィスでは、オフィス勤務とリモート勤務を最適に組み合わせるハイ
ブリッド型ワークスタイル※
を推進し、組織の生産性と社員エンゲージメントの最大化を目指している。
※ハイブリッド型ワークスタイルとは、社員の職務に基づいて、オフィス勤務とリモート勤務に
費やす時間の期待値を設定して、組み合わせていくやり方。例えば、開発や設計等の職
種は、業務を効率的に遂行するためにオフィスのインフラへのアクセスや頻繁な対面コラ
ボレーションを必要とするため、出社頻度は高くなるが、営業やバックエンドなどの業務に
おいては、リモートで作業できる柔軟性を備えていて、同僚とのコラボレーションやつながり
のためにオフィスで働き、リモート勤務とバランスをもって組み合わせて働くという考え方。
■人事・労務管理の整備
【労務管理の運用ルール】
社員は勤怠管理システムを通じて、始業・終業時間を申告し、報告された内容を上司が
承認している。
【人事評価面での取組】
もともと成果主義の評価制度であり、テレワークであっても出社であっても、人事評価の
方法は変わらない。仕事をするということは会社に来ることではなく、その仕事によって成果
を導くことであることを以前から説明しており、社員も理解している。評価基準が成果とその
プロセスであるため、テレワークか否かが人事評価上の不利益になるという発想はない。
【労務管理上の工夫】
社員の9割が裁量労働又は管理職であるため、大半の社員において勤務時間は社員
の裁量に委ねられている。制度上、勤務時間中の中抜けが認められており勤務報告シス
テム上で報告出来るようになっている。一方で健康管理上、長時間労働にならないよう全
社員の勤務時間を把握し、一定時間を超える社員には、健康状態の確認と必要があれば
産業医面談や上司への指導等を行っている。
社員を信頼する文化があり、怠業がある前提での管理システムでは無い。仮に怠業が
あれば、パフォーマンスに現れると考え、各管理職が日常のマネジメントの中でフォローする
形をとっている。怠業を想定してコストをかけるよりも、信頼して効率的に働いてもらった方
が成果を最大化できると考えている。
30
■情報通信環境の整備
【環境整備上の工夫】
オンライン会議ツール、電話機能のついたノートPCを会社から全社員に貸与している。
【業務改善の取組】
出社しなくても社内の情報にアクセスできるよう、イントラネットを活用している。また、経理
や人事の承認ツールもオンライン化しており、新型コロナウイルス感染症により在宅勤務が
基本になったことで、逆に出社しないとできない仕事が洗い出された。押印業務がその一
つだが、法務部門が中心となり電子サインシステムを導入した。また、押印が省略できるプ
ロセスについては、省略する業務改善を行った。
【在宅勤務】
テレワーク環境整備のための機材(モニター、机、椅子、照明器具、ネットワーク接続機
器等)購入費の補助及び定額一時金の支給を行った。
【オンラインでの社員サポート】
従来、対面で行ってきたイベントやトレーニングなどを、テレワークを理由に中止すること
はせず、オンラインに置き換えて実施している。コロナ禍によりテレワークが日常になったこ
とから定期的にテレワークで社員の関心の高いテーマを選んでセミナーを開催。
テーマは、住環境整備、食生活、メンタルケア、新型コロナウイルス感染症予防情報、テ
レワーク下での部下のケア、クッキング教室等多岐にわたり、延べ30回を超える。
また、社員1人ひとりの心と体の健康増進のため、ウエルネスプログラムを月1回程度の
頻度で実施。ストレッチ、ヨガ、食事バランス、メンタルセルフケアセミナー等、様々なプログラ
ムをオンラインで提供した。コロナ禍が始まった直後に行ったアンケートでは、在宅勤務によ
り主に運動不足で健康に不安があると答えた割合は、全社員の30%だったが、一年後に
実施したアンケートでは約20%に減り、改善している。
(画像1産業医によるセミナーの様子)
31
■健康で豊かな生活のための時間の確保
【労働時間の工夫】
2007年に「フレックスワークプレイス制度」を導入する以前の、1977年からフレックスタ
イム制を導入している。2016年から裁量労働の対象範囲を拡大し、多くの社員が裁量性
を持った勤務を行っている。新型コロナウイルス感染症拡大の中でのテレワーク利用の大
幅拡大は、緊急対応の側面もあるが、従来から社員の裁量性を重んじる制度となっていた
ことが大きなアドバンテージとなった。現在、90%~95%の社員、派遣社員がテレワークを
行っている。
【時間外・休日労働の工夫】
テレワークに限らず、全社員の勤務時間を会社が把握している。一定時間以上の長時
間勤務者に対しては、人事によるヒアリングの実施や、必要に応じて上司に対し改善依頼
を出している。
【休暇取得促進の取組】
年5日の年次有給休暇取得の義務化に合わせて、期初に一定日数の休暇を計画取得
しやすいようにし、中途採用者にも徹底している。5年に一度のリフレッシュ休暇について
は、コロナ禍もあり利用期限を1年間延期し、新型コロナウイルス感染症の収束後に利用で
きるよう配慮している。
■就労による経済的自立、多様な働き方・生き方の選択
【多様な人材の活躍】
テレワークの普及により、通勤による身体的・精神的な負担が減り、社員がより効率的・
生産的に働ける環境となったことで、活躍の場が広がっている。特に障がいを持つ社員に
とって、通勤による心身の負担が減ることのメリットは健常者に比べると大きい。これは採
用上も応募者が増える等、企業としての魅力につながっている。
障がいを持つ社員も全員テレワークを実施活用している。ある車いす利用の社員は出
産後も在宅勤務を活用して、子育てしながら勤務を継続している。
また、一般的に聴覚に障がいがある社員にとってテレワーク環境はコミュニケーション上
のハードルが高くなるが、オンライン会議・セミナーでの字幕機能や音声テキスト化機能の
活用(英語ではほぼ100%、日本語では録画の字幕付加にて対応)、クラウドツールを活用
したノートテイク、PCから音声を直接補聴器に入力する支援機器の活用などで、現在対
面時とほぼ遜色ない、一部上回る環境で勤務することができている。
ワーク・ライフ・バランスに関する事項
32
【派遣社員への対応】
派遣社員もテレワークできるよう、エッセンシャルワーカー(出社必須)となる業務を絞り
込み、自宅のノートPCからリモートで会社のデスクトップPCに接続して業務するなど、テク
ノロジーを駆使することで、オフィスに来なくても可能な社員を増やした。また、ノートPC他、
業務上必要な機器を貸与している。
【育児・介護と仕事の両立】
テレワークの目的の一つとしてワーク・ライフ・バランスの実現があり、育児や介護との両
立もひとつの効果である。育児休業明け直後の社員、介護が必要な家族を近くに持つ社
員もテレワークを上手く活用している。社員からはテレワークの活用により子育てをしやす
い環境となったことで、育児休業を取るまでも無いという声もあるが、それは意図するところ
ではないので、特に男性社員にはきちんと一定期間の育児休業を取得するよう奨励し、個
別にフォローしている。また、男性社員の育児休業取得率はDE&I(Diversity,Equity
&Inclusion)施策ゴールの一つとして掲げている。
【転籍・居住地の選択肢拡大】
海外現地法人の日本人社員を日本法人に転籍した例、配偶者の海外赴任に帯同する
ため、配偶者の赴任地の現地法人に社員を転籍した例がある。
また、コロナ禍による全面在宅勤務移行により、居住地の選択肢が広がっている。単身
赴任者等が家族の居住地に戻って勤務継続することを一定条件の下で認めている。
■社員の満足度
テレワークは従来から導入していたが、コロナ禍により在宅勤務が主体となった後に行っ
た社員アンケートでは、仕事の生産性について、85%の社員が以前より良くなったか変わらな
いと回答し、75%の社員が新型コロナウイルス感染症収束後も週3日以上の在宅勤務を希望
している。
このような環境下で実施した社員意識調査のエンゲージメントスコアが、コロナ禍にも関わ
らず2020年度は2019年度から17ポイント向上した。これは新型コロナウイルスの感染拡大
の中でテレワークに大きくシフトすることにより、コロナ禍において社員の健康を第一優先に
掲げた会社方針への同意と、従来からテレワークを経験していたことから、以前と変わらず
に業務を継続できたことの影響が大きいと捉えている。
33
株式会社日本HP
契約書などへの署名・捺印プロセスをデジタル化し、2020年10月に署名・捺印に関する社
内規程を改定した。翌11月から本格的に電子署名制度を導入。業務の効率化はもちろん、
ペーパーレス化にも寄与し管理も容易になった。
もともと社内は多くの社員が空いている席に自由に座ることができるフリーアドレスだった
が、在宅勤務の一般化に伴って本社移転を決定した。その際、新本社では、固定席をさらに
削減し、オフィススペースは半減する予定である。オフィス勤務とテレワークを最適に組み合
わせるハイブリッド型ワークスタイルを推進し、組織の生産性と社員エンゲージメントの最大
化の実現を目指している。
コロナ下での社員間交流の工夫
夏休み期間中、社員の家族向けにオンラインファミリーデーというイベントを実施し、子供向
けの料理教室や工作教室、バーチャル工場見学などを企画して好評を得た。
また、出社が無くなり同僚との雑談が恋しいという声に応えて、仕事を離れたサークル活動
(例えば、キャンプ・アウトドア、野球観戦、手品、eスポーツ、投資勉強会等)を呼びかけたと
ころ、社員の2割の参加があり、現在20グループ以上が部署を超えたメンバーとの活動を楽
しんでいる。
生産性向上の工夫
(画像2新本社の様子)
(画像3オンラインファミリーデーの様子)
34
事例検索へ戻る事例検索へ戻る