富士通株式会社
経営トップが新しい働き方の推進を社内外に明確に発信しており、テレワークの実施
率は常時80%と高い。また単身赴任の解消、遠隔勤務、コアタイムなしのフレックスタ
イム制といった取組をはじめ、良質なテレワークの実施に必要な事項(制度、環境整備、
柔軟な勤務形態や働く場所、評価、労務管理、手当等)がバランスよく整備されている。
■制度の整備状況
約2年間のトライアルを経て、2017年4月よりテレワーク制度を正式導入し、制度・ルールの
見直し、ICTやファシリティなどの環境整備を進め、テレワークの推進を行ってきた。2020年7
月には、「WorkLifeShift」(「働く」ということだけでなく、「仕事」と「生活」をトータルにシ
フトし、Well-beingを実現していく)を発表。その施策の一つとして、国内グループ社員約
8万人の勤務形態はテレワーク勤務を
基本とし、業務の内容や目的、ライフス
タイルに応じて、時間や場所をフレキシ
ブルに活用できる働き方の実現を目指
している。
会社概要
組織名
名称:富士通株式会社
創立:1935年
組織代表者
役職代表取締役社長
氏名時田隆仁(ときたたかひと)
業種情報通信業
所在地東京都
総従業員数32,026人(2021年3月時点)
テレワークの導入形態
終日在宅勤務部分在宅勤務
モバイル勤務サテライトオフィス勤務
テレワークの利用者数(過去1年間)約32,000人(2021年3月時点)
基本的な事項
(画像1「WorkLifeShift」のコンセプト)
■経営上の位置付け
2020年7月、これまで以上に高い生産性を発揮しイノベーションを創出し続けるための新
しい働き方として、「WorkLifeShift」の推進を社内外向けに発表した。
また、グローバルに事業を展開するテクノロジー企業として、持続可能性のある社会の実
現をパーパスとして定めている。パーパス実現に向けては、経営目標として従来の財務指
標に加えて、社会やお客様、社員やカルチャーなどを考慮した非財務面での活動を評価
する指標を定めている。その課題の一つに「Well-being」が含まれており、「WorkLife
Shift」を推進し、社員のエンゲージメントが向上することで、結果として自社自身の成長にな
り、社会やお客様への長期的で安定した貢献に繋がると考えている。
■周知・啓発方法
全社員基本テレワーク勤務としている中で、経営層からのメッセージや「WorkLife
Shift」に関する施策を通じて、テレワーク勤務などの時間・場所にとらわれない自律的で柔
軟な働き方を導入する意義・目的を社員に通知している。
■人事・労務管理の整備
【労務管理の運用ルール】
勤務開始と終了時にPCやスマートデバイスのブラウザから打刻が可能な労務管理用の
ソフトウェアにて打刻を実施。さらに、PCログを取ることで、勤務時間(打刻時間)と実際の業
務時間の乖離がないか確認し、毎日上司にメール通知することで、テレワークによる長時間
労働の防止や適正な労働時間の把握を行っている。また、コミュニケーションツールを全社
共通サービスとしてグローバルに活用しており、上司・部下との定期的な「1on1ミーティング」
や、チーム会議を実施し、業務の進捗報告やチームメンバーの状態確認を行うことを推奨し
ている。
(画像2富士通のパーパス)
【人事評価面での取組】
テレワークは、多様な人材が活躍し続けられる環境の構築や勤務場所にかかわらず、一
人ひとりのパフォーマンス向上とチームとしての成果の最大化を狙いとしている。そのため、
チーム内の円滑な業務遂行やパフォーマンス向上、および適正な評価とフィードバックを目的
として、上司と部下の双方に対して十分なコミュニケーションを図るよう周知している。さらに
評価者向けの研修においては、特に注意するポイントとして、成果を重視した適切な評価を
行うよう丁寧に説明を行っている。
■情報通信環境の整備
【環境整備の工夫】
場所にとらわれない働き方をITで提供するために、オフィス勤務、在宅勤務、モバイル
勤務、サテライトオフィス勤務の環境依存を無くしたボーダレス環境を整備している。具体
的には、以下の取組を行っている。
・ノートPCとスマートフォンを貸与している
・多要素認証、本人特定、利用デバイスのセキュリティ確認などのセキュリティ施策を設
け、暗号化による通信を実装
・テレワーク下において、より安全なシステム利用を短期間で実現するため、全社員にソフ
トウェアトークンをインストールできるスマートフォンまたはハードウェアトークンを配布し、多
要素認証の一つとして利用
・リモート会議を含めコミュニケーションツールを全社共通サービスとしてグローバルに提供
し、コミュニケーションの維持・活性化を推進
・仮想デスクトップ環境を整備し、BYOD(会社支給ではない端末)からのアクセスでも安
全な業務遂行基盤を提供
・2021年度よりどこからでもセキュアに社内やインターネットにアクセス可能な環境SIG※
を
提供。外部施設においても安全かつシームレスに業務が可能となった
※SIG:SecureInternetGatewayの略で、自宅やサテライトオフィスなどの社外から、イ
ンターネットや自社のネットワークなどに、安全に接続できる新しい社内インフラ。
(画像3新たな働き方に合わせたインフラ基盤の導入)
【在宅勤務の環境整備】
2020年7月より月額5千円の在宅勤務環境の整備費用補助を実施している。
【サテライトオフィスの整備】
各事業所内に順次サテライトオフィスを整備している。現在、全国に23拠点約2,500席
設置しており、今後、事業所がないエリアにも単独のサテライトオフィスの設置を推進する
予定である。各サテライトオフィスでは、共用のシンクライアントPCやWeb会議用の個人
ワークスペースを完備しており、個人PCを持ち運ばずとも、仮想デスクトップ環境を経由し
ていつでもどこでも業務が実施できる環境を整備している。さらに民間の外部サテライトオ
フィス活用も2018年度より開始し、全国800カ所の施設を利用可能とした。
【社員の意識向上に向けた工夫】
テレワークに関する社内への接続方法やセキュリティに関する意識向上と定着化を目
的に、社員向けにeラーニングを実施。社内SNSにてリモートワーク用のコミュニティを開設
し、社員の要望や悩みの声を全社員で共有するとともに、キャッチアップした結果を機能
改善に役立てている。利用に関するセットアップ手順などはマニュアル以外にも動画で社
内公開し、在宅勤務時にひとりで作業できるようにコンテンツを整備している。
ワーク・ライフ・バランスに関する事項
■健康で豊かな生活のための時間の確保
【柔軟な働き方への工夫】
2017年にテレワークを本格導入した際から、フレックス制度の適用範囲を順次広げてき
た。そして、2020年7月より、国内グループの全社員へ「コアタイムのないフレックス勤務」を
適用拡大した。現在、社員の93%が「コアタイムのないフレックス勤務」を活用しており、テレ
ワークと併せて、時間・場所にとらわれない柔軟な勤務形態とワーク・ライフ・バランスの向上
を実現している。
(図表1フレックス勤務制度活用状況)
フレックス勤務制度活用状況
2019年10月2021年6月
フレックス勤務
87%
コアあり
65%
コアなし
22%
一般勤務
13%
フレックス勤務
93%一般勤務
7%
コアなし
93%
【長時間労働抑制に向けた工夫】
打刻だけでなく、PCのログ情報も用いて勤務時間を管理することで、テレワーク下でも正
確な管理ができている。長時間労働となっている場合やPC起動時間と打刻時間に乖離が
ある場合、上司に速やかに是正指示がいくようになっている。年間平均残業時間は、テレ
ワーク制度本格導入前年の2016年が29.5時間/月であったのに対して、2020年は27.5時
間/月となり、減少した。
【家事・育児等との両立の工夫】
Web上で利用できる労務管理のソフトウェアを活用した業務中断/再開の簡略化、およ
びコアなしフレックス制度の適用拡大により、「家事」「育児」などと業務との両立をより図れ
るようにした。これにより業務時間中の業務中断回数が、2020年1月:約5,000回➡︎2021年1
月:約37,000回に増加しており、「時間」にとらわれない柔軟な働き方を実現している。
【ワーケーションの推奨】
観光・帰省によるリフレッシュや普段と異なる環境での体験から新たな知見やアイデアを
得られるように、出張時の延長滞在や、休暇を活用したワーケーションを推進。各自治体や
企業との連携も進めており、利用時のガイドラインやワーケーションプランを掲載することで、
社員が「ワーケーション」に取り組みやすい環境を整備している。今後も新型コロナウイルス
の感染状況に配慮しながら、社内への普及を図っていく方針である。
■就労による経済的自立、多様な働き方・生き方の選択
【多様な人材の活躍】
全社員基本テレワーク勤務としており、高齢者や障がいのある社員もテレワークを利用
して活躍している。また、従来から高齢者(定年後再雇用者)に対して、柔軟な働き方であ
る短日勤務や短時間勤務を認めており、それらの対象者もテレワークを可能としている。今
後も「場所」や「時間」にとらわれない働き方を実現することで、多様な人材が活躍できる
環境を整備していく。
(図表2業務時間中に業務を中断した回数)
業務時間中に業務を中断した回数
2020年1月
約5,000回
2021年1月
約37,000回中断回数増加!
業務を中断して「家事」「育児」などに時間を
充当することが可能に!
【育児・介護と仕事の両立】
育児休職制度や介護・介護準備休職制度など仕事と家庭の両立を支える制度を整備して
いる。また、テレワーク勤務制度やコアなしフレックスタイム制度により、各社員が自律的に自分
の生活や家族に合わせた柔軟な働き方を実現している。
2020年10月には、家族の育児・介護や病気の治療、障害を持つ子供の療育、2021年7月に
は不妊治療などの家族事情を持つ社員に対して、通勤圏外の住居からの遠隔勤務を認め
た。今後も適用事例の範囲を広げていく。2020年10月の制度開始から現在までに、110名の
社員が家族事情で遠隔勤務を実施しており、「仕事」と「生活」の両立を実現している。
【単身赴任の解消】
「WorkLifeShift」の施策として、ライフスタイルに応じた「最適な働き方」を推進するた
め、テレワークと出張で対応可能な社員については、単身赴任を解消した。施策開始後、単身
赴任している約1,900名の社員のうち、580名の単身赴任が解消され、ワーク・ライフ・バランス
の向上を実現している。
■地方創生への取組
2021年3月、地方創生や地域課題の解決、地域の産業活性化などを目的に、大分県と包括
協定を結んだ。これにより、希望する社員は、大分県での遠隔勤務および移住が可能となった。
今後、対象地域を拡大させていき、持続可能な社会への貢献をしていくとともに、場所や時間に
とらわれない多様な働き方を推進していく。
(画像4「WorkLifeShift」による働き方の変化)
■社員の満足度
2020年7月以降のテレワークやコアなしフレックスタイム制度などの働き方改革の新たな施策
「WorkLifeShift」に関して、2020年11月にアンケートを実施した。生産性については、生産
性を維持または向上したという回答が前回調査より10ポイント増加し75%となり、新しい働き方
が徐々に浸透していることが伺える。また、どういう点でよくなったのかについては、「勤務場所・
通勤」「勤務形態・制度」「テレワーク環境補助・金銭補助」をあげる社員が多いという結果と
なった。
(画像5「WorkLifeShift」に関するアンケートの結果)
オフィスの在り方を見直し、ソロワーク※やオンラインミーティングは自宅またはサテライトオ
フィスで実施し、これまでのオフィスは社内外のイノベーティブなコミュニケーションの場と位
置づけ、全面リニューアルを行った。(画像6、7)
リニューアルにあたっては、ソロワークのエリアを大幅削減し、コミュニケーションエリア中心
のレイアウトとした結果、執務エリアの面積は50%削減となった。
徹底したペーパ-レス、ペーパーストックレスを実施し、印刷量は新型コロナウイルス感染
拡大前の60%に減少、オフィス内の書庫はゼロとなった。
さらに、基本テレワークになったことで、一人当たりの通勤時間が一か月あたり約30時間
減少した。
※ソロワーク(Solo-work):一人で集中し、個人のパフォーマンスを最大限に発揮する仕事
の仕方。一方、チームで人とのコミュニケーションを通して成果を生み出す仕事の仕方を
コワーク(Co-work)という。
富士通株式会社
生産性向上の工夫
通勤時間の減少
113分20日80%
≒30時間/月通勤時間減少
平均往復
通勤時間月所定日数テレワーク率
××
(画像6、7全面リニューアルしたオフィス)
(図表3通勤時間の減少)
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